会議の録音や動画の字幕づくりを前にして、文字起こしAIという言葉を調べている方は多いはずです。1時間の音声を耳で聞きながら手で打ち直すと、それだけで半日が消えてしまいます。
先に結論をお伝えすると、文字起こしAIにはクラウド型と自分のパソコンで動かす型の2種類があります。後者なら、OpenAIが公開している「Whisper」を使って、音声を外に出さずに無料で完結させられます。
この記事では2026年8月30日時点の公式リポジトリを確認しながら、仕組み・モデル別の必要VRAM・パソコンだけで完結させる手順・グラフィックボードが無い場合の現実的な線引きまで整理します。
文字起こしAIは自分のパソコンだけでも動かせます。ソフト側の費用はかからず、快適さを決めるのはPCのVRAMとCPUの力です。
- WhisperはMITライセンスで公開され、99言語に対応(2026年8月時点・公式記載)
- 公式が示す必要VRAMの目安は、いちばん軽いtinyで約1GB、largeで約10GB
- グラフィックボードが無くても軽いモデルなら動く。大きいモデルを日常的に使うならVRAMが物を言う
文字起こしAIとは?クラウド型と「自分のPCで動かす型」の2種類
文字起こしAIとは、話し声や録音された音声を、自動でテキストに変換してくれるAIのことです。録音ファイルを渡すと、しゃべった内容を文章として書き出してくれます。
ここで最初に分かれ道があります。処理をどこで行うかです。ブラウザやアプリから音声を送って向こう側で処理してもらうのがクラウド型、自分のパソコンの中で最初から最後まで処理するのがローカル型です。
| 比べる点 | クラウド型(Webサービス) | 自分のPCで動かす型 |
|---|---|---|
| 音声データの行き先 | サービスの提供元へ送信される | 自分のパソコンの中だけで処理できる |
| 長さ・回数の制限 | 各サービスの規約や上限に従う | パソコンを動かせる時間だけ使える |
| PCの性能 | ほとんど影響しない | 速度と選べるモデルを左右する |
| 始めるまでの手間 | 登録すればすぐ使える | ソフトとモデルの準備が必要 |
| 費用の考え方 | サービス側の条件による | ソフト自体は無料。費用はPC側にかかる |
よくある疑問:手軽なのはクラウド型なのに、わざわざ自分のPCで動かす意味ってあるの?
意味があるのは、録音の中身を他社のサーバーに預けたくないときです。社内会議、面談、取材、医療や法務にかかわる音声などが典型で、ローカル型なら音声がパソコンの外に出ません。長時間の録音をまとめて処理したい場合も、上限を気にせず回せます。
この「AIを自分のパソコンの中で動かす」考え方は、文章を生成するAIでも同じです。仕組みや必要なスペックの全体像はローカルLLMとは?自分のPCでAIを動かす方法と必要スペックを解説で整理しています。この記事では、その音声版を扱います。
Whisperとは?無料で使えるOpenAIの音声認識AI
Whisper(ウィスパー)とは、OpenAIが公開している音声認識AIのモデルです。公式リポジトリでは「Transformerのsequence-to-sequenceモデル」と説明されており、複数の音声処理タスクをまとめて学習しています(2026年8月30日時点)。
- 多言語の音声認識:しゃべった内容をその言語のテキストにする
- 音声翻訳:音声を別の言語のテキストにする
- 話し言語の判別:何語で話されているかを見分ける
- 音声区間の検出(=人が話している部分と無音を見分ける処理)
特徴的なのは公開の仕方です。公式リポジトリには「コードとモデルの重みはMITライセンスで公開されている」と明記されています。MITライセンスは使ってよい条件を定めた取り決めの一種で、商用も含めて自由度が高い形です。つまりソフト代を払わずに手元で動かせます。
対応言語の広さも公式に示されています。Hugging Faceで公開されている最新世代のモデルカードでは、99言語に対応し、500万時間を超えるラベル付きデータで学習したと記載されています(2026年8月30日時点)。日本語もこの中に含まれます。

「無料」といっても広告付きの体験版ではなく、ライセンス上そう使ってよいと公式が示している形です。安心して手元で試せます。
なお、モデル本体の配布場所として使われているのがHugging Faceです。AIモデルの入手先としての役割はHugging Faceとは?AIモデルの入手先と自分のPCで動かす方法で解説しています。
Whisperのモデルと必要VRAM|どれを選べばいい?
Whisperは1種類ではなく、サイズ違いのモデルが用意されています。小さいほど軽くて速く、大きいほど重い代わりに読み取りが丁寧になります。公式リポジトリに掲載されている一覧が、選ぶときの出発点です。
| サイズ | パラメータ数 | 英語専用 | 多言語 | 必要VRAM | 相対速度 |
|---|---|---|---|---|---|
| tiny | 39 M | tiny.en | tiny | 約1 GB | 約10x |
| base | 74 M | base.en | base | 約1 GB | 約7x |
| small | 244 M | small.en | small | 約2 GB | 約4x |
| medium | 769 M | medium.en | medium | 約5 GB | 約2x |
| large | 1550 M | なし | large | 約10 GB | 1x |
| turbo | 809 M | なし | turbo | 約6 GB | 約8x |
出典はOpenAIのWhisper公式リポジトリで、2026年8月30日に確認した内容です。VRAMはグラフィックボードが持つ専用のメモリで、ここに収まるかどうかが「そのモデルを動かせるか」の目安になります。
読むときに2つ注意があります。まずこの必要VRAMはOpenAI公式の実装で動かす場合の目安で、後述する軽量化された実装や設定では、これより少ないメモリで動く例もあります。「largeは必ず10GB要る」と固定して考える必要はありません。
もう1つは相対速度です。表の「約10x」はlargeを1倍としたときの相対値であり、実際の音声の10分の1の時間で終わるという意味ではありません。
公式リポジトリにも、この相対速度はA100というGPUで英語音声を書き起こして測ったもので、実際の速度は言語・話す速さ・使う機材で大きく変わると但し書きがあります。あくまでモデル同士の比較として読んでください。
largeとturbo、どちらを選ぶ?
迷いやすいのが最後の2つです。turboについて公式は「large-v3を最適化したもので、精度の低下を最小限に抑えつつ書き起こし速度を上げる」と説明しています。モデルカードによれば、large-v3を刈り込んで再調整し、デコーダの層数を32から4へ減らした809Mのモデルで、多言語専用(英語専用版なし)です。
ただし見落とせない条件があります。公式リポジトリにはturboは翻訳タスク向けには学習されていないと明記され、翻訳を指定しても元の言語で返ると記載されています。日本語の音声を日本語のまま書き起こすなら有力ですが、音声を別言語に訳したいならlargeを選ぶ形になります。
よくある疑問:手持ちのグラボで、どのモデルまで狙えるの?
目安として、公式表のVRAM欄が自分のグラフィックボードの容量に収まるかを見てください。8GBならturbo(約6GB)までが射程に入り、largeを余裕をもって扱いたいなら容量に余裕のあるモデルが安心です。VRAMの考え方はローカルLLMに必要なVRAMは何GB?モデル別の目安とGPUの選び方で詳しく整理しています。
パソコンだけで無料で文字起こしする手順(GUIアプリ編)
Whisperそのものは開発者向けの形で公開されているため、初心者が最短で試すなら画面操作だけで完結するアプリを使うのが現実的です。画面操作で使える選択肢のひとつが、Whisperを使う無料アプリのBuzzです。
公式リポジトリの説明は「自分のパソコン上で、オフラインに音声を文字起こし・翻訳する。OpenAIのWhisperを使用」というもの。処理が手元で完結する点が明記されています。ライセンスはMITで、対応OSはWindows・macOS・Linuxです(2026年8月30日時点)。
公式リポジトリの案内では、Windowsはインストーラ、macOSはDMG(Apple Silicon向け。Intel Macはv1.4.5までのサポート)、LinuxはFlatpak・Snap・AppImageの形で配布されています。
通常のアプリと同じ手順で導入します。ここまで来れば、あとは画面の操作だけで進められます。
公式の機能一覧には、音声・動画ファイルの文字起こし、YouTubeリンクの取り込み、マイクからのリアルタイム文字起こしが挙げられています。指定フォルダを監視して自動処理する機能もあります。
前の章の一覧を見ながら、自分のVRAMに収まるサイズを選びます。複数のWhisperバックエンドに対応しており、NVIDIA GPUのCUDA支援、多くのGPUで使えるVulkan、Apple Siliconに対応すると公式に記載されています。
書き出せる形式はTXT・SRT・VTTの3種類です。SRTとVTT(=動画に字幕を表示するためのファイル形式)で出せるので、そのまま動画編集ソフトや配信サービスに渡せます。
ここまでの流れに、専門知識はほとんど必要ありません。難しい設定でつまずくのは、ほとんどが開発者向けの導入方法を選んだときです。まず結果を見たい段階なら、アプリから入るほうが遠回りになりません。
GPUが無くても動く?CPUとGPUでどれくらい違うか
いちばん気になるのが「グラフィックボードが無いパソコンでも使えるのか」でしょう。答えを先に言うと動きます。ただし、選べるモデルと待ち時間が変わります。
参考になるのが、高速化版として知られるfaster-whisperの公式リポジトリに載っている実測値です。faster-whisperはCTranslate2(=AIモデルを高速に動かすための推論エンジン)を使ったWhisperの再実装で、公称では同じ精度のまま最大4倍速く、メモリ使用量も少ないとされています。
次の数値は、13分の音声を、GPU=NVIDIA RTX 3070 Ti 8GB、CPU=Intel Core i7-12700K(8スレッド)、beam size 5という条件で測ったものです(2026年8月30日確認)。
| 動かした場所 | モデル | 実装と精度 | 所要時間 | メモリ |
|---|---|---|---|---|
| GPU(RTX 3070 Ti 8GB) | large-v2 | openai/whisper・fp16 | 2分23秒 | VRAM 4708MB |
| GPU(同上) | large-v2 | faster-whisper・fp16 | 1分03秒 | VRAM 4525MB |
| GPU(同上) | large-v2 | faster-whisper・int8 | 59秒 | VRAM 2926MB |
| CPU(Core i7-12700K) | small | openai/whisper・fp32 | 6分58秒 | RAM 2335MB |
| CPU(同上) | small | faster-whisper・fp32 | 2分37秒 | RAM 2257MB |
| CPU(同上) | small | faster-whisper・int8 | 1分42秒 | RAM 1477MB |
ここから読み取れることは2つあります。1つは、軽めのモデルならCPUだけでも実用の範囲に入ること。smallモデルなら、13分の音声が1分42秒で終わった記録が公式に残っています。
もう1つは、大きいモデルを常用するならVRAMが物を言うこと。large-v2をGPUで動かした例では、fp16で4525MB、int8なら2926MBで済んでいます。これは公式実装の目安である約10GBよりかなり少ない値で、実装や設定で必要量が変わることがよく分かります。
int8はモデルを圧縮して軽くするやり方で、量子化と呼ばれます。仕組みは量子化とは?AIモデルが4bitで軽くなる仕組みを初心者向けに解説で扱っています。
なおこれらはあくまで公式が示した測定条件での数値で、同じ時間で終わることを約束するものではありません。音声の長さ・録音状態・パソコンの構成で変わります。それでも、同じモデルならGPU側が短時間で終わり、CPUだけの場合は軽いモデルを選ぶほど待ち時間が縮む、という傾向は読み取れます。
長い会議や動画を毎週まとめて処理するなら、GPUを積んだパソコンのほうが待ち時間のストレスは小さくなります。画像生成AIやローカルLLMと同じPCを使い回せるのも利点です。
\AI用途にも使えるGPU搭載モデル/
使う前に知っておきたい注意点
便利な反面、先に知っておきたい点がいくつかあります。順に見ていきます。
まずモデルは速さだけで選ばないこと。turboは速い代わりに翻訳タスク向けには学習されていないと公式に明記されています。音声を訳したい用途では、素直にlargeを選ぶ形になります。
次に環境まわりです。公式実装は音声・動画を扱うためのツールとしてffmpegが必要で、GPUで動かす場合はCUDA 12向けのcuBLASとcuDNN 9が必要と記載されています。初心者がつまずきやすいのは、ほぼこの下準備の部分です。だからこそ、前章のアプリ経由が近道になります。
そして、出てきた文章の扱い方です。
AIの書き起こしは、そのまま提出せず必ず読み返してください。人名・製品名・社内用語などの固有名詞は取り違えが起きやすく、議事録や字幕として外に出すなら人の目による確認が欠かせません。
最後に音声そのものの扱いです。機密性の高い会議や個人情報を含む録音なら、手元で完結するローカル型のほうが管理しやすいのは間違いありません。逆に、公開前提の動画に字幕を付けるだけなら、手軽さを優先しても構いません。



用途によって正解は変わります。「音声を外に出したくないか」を最初に決めると、迷いが一気に減りますよ。
まとめ
- 文字起こしAIは、音声をテキストに変換するAI。クラウド型と自分のPCで動かす型がある
- Whisperはコードとモデルの重みがMITライセンスで公開され、99言語に対応(2026年8月時点)
- 公式が示す必要VRAMの目安はtiny・baseが約1GB、smallが約2GB、mediumが約5GB、turboが約6GB、largeが約10GB
- turboは速いが翻訳向けには学習されていない。訳したいならlarge
- アプリを使えば画面操作だけで完結。書き出しはTXT・SRT・VTT
- グラフィックボードが無くても軽いモデルなら動く。大きいモデル中心ならVRAMが快適さを決める
文字起こしAI自体には、お金がかかりません。費用が発生するとすれば、それは動かす側のパソコンです。まずは手持ちのパソコンで軽いモデルを試し、待ち時間が気になったときに初めてGPUの増強を検討する——この順番なら無駄がありません。
この記事のモデル構成・ライセンス・対応OS・実測値は、2026年8月30日時点で各公式リポジトリとモデルカードに記載されていた内容です。更新の速い分野なので、実際に導入する前に公式の最新情報を確認してください。
- Whisperは本当に無料で使えますか?
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OpenAIの公式リポジトリに「Whisperのコードとモデルの重みはMITライセンスで公開されている」と明記されています(2026年8月30日確認)。ソフト側の利用料はかかりません。ただし動かすパソコンは自前で用意する必要があり、快適さはVRAMやCPUの性能に左右されます。
- グラフィックボードが無いパソコンでも文字起こしできますか?
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できます。faster-whisperの公式リポジトリには、Core i7-12700K(8スレッド)でsmallモデルを使い、13分の音声をint8で1分42秒・RAM 1477MBで処理した記録が載っています(beam size 5)。測定条件付きの数値なので同じ時間を保証するものではありませんが、軽いモデルなら実用の範囲に入ります。
- largeとturboはどちらを選べばいいですか?
-
日本語の音声を日本語のまま書き起こす用途で速さを求めるならturboが候補です。公式はlarge-v3を最適化して速度を上げたものと説明しています。ただしturboは翻訳タスク向けには学習されていないと明記されているため、音声を別の言語に訳したい場合はlargeを選んでください。
- 日本語にも対応していますか?
-
対応しています。公式のモデルカードには99言語に対応すると記載されており、日本語も含まれます。ただし認識のしやすさは録音環境や話し方に左右されます。固有名詞や専門用語は取り違えが起きることがあるので、公開前に読み返す前提で使うのが安全です。
- 文字起こしした音声データは外部に送信されますか?
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自分のパソコンで動かす形なら、処理は手元で完結します。今回取り上げたアプリも公式説明で「自分のパソコン上でオフラインに文字起こし・翻訳する」とされています。一方クラウド型のサービスは音声を提供元へ送る仕組みなので、扱いは各サービスの規約を確認してください。
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