MoEとは、AIモデルの中に「エキスパート」と呼ばれる担当を複数(モデルによっては数百個)用意しておき、そのうちごく一部だけを動かす仕組みのことです。最近のモデル名に見かける「26B-A4B」「2.4T-A95B」という不思議な表記も、このMoEから来ています。
つまずきやすいのが、「Aのあとの数字だけを見て、4Bぶんしか動かないなら自分のパソコンでも軽いはず」と考えてしまうところです。実際に必要なメモリは、その数倍にふくらみます。
この記事では、MoEの仕組みとモデル名の読み方を、Google・Mistral AI・OpenAIが公開している公式の数値だけで整理します。数値はすべて2026年8月20日時点に公式ページで確認したものです。
MoEは「速さ」を稼ぐ仕組みで、必要なメモリはほとんど減りません。
- 「A◯B」の数字=1トークンあたり実際に動くアクティブパラメータの数
- 速さはアクティブぶん、メモリは総パラメータぶん。Gemma 4の26B A4Bは4bit相当で14.4GBと、密の12B(6.7GB)の倍以上
- グラフィックボードを選ぶときに見るのは、名前の前半にある総パラメータ側
MoE(Mixture of Experts)とは?必要な担当だけを動かす仕組み

MoEとは、モデルの内部に複数の小さなニューラルネットワーク(エキスパート)を並べておき、入力に応じてその一部だけを使う設計のことです。正式にはMixture of Experts(混合エキスパート)といいます。
Hugging Faceの公式ブログ「Mixture of Experts Explained」によると、MoEは2つの部品でできています。1つ目が「Sparse MoE層」で、通常のモデルにある密なフィードフォワード層を置き換える形で組み込まれます。
つまり「専門家」の正体は、この層の中に並ぶ複数の小さなネットワークです。人間のように「この人は法律担当」と決められているのではなく、学習の過程で自然に役割が分かれていきます。
2つ目がルーター(=どの入力をどのエキスパートに渡すか決める振り分け役)です。同ブログはこれを「どのトークンをどのエキスパートへ送るかを決めるゲートネットワーク、またはルーター」と説明しています。
トークン(=AIが文章を細かく区切って処理する単位)ごとに、ルーターが担当を選び直します。考え方はAIのトークンとは?料金が決まる仕組みでも解説しています。
イメージは大きな総合病院の受付が近いかもしれません。院内に何科あっても、来た人が全部を回ることはありませんよね。症状を聞いた受付が合う科へ案内する——ルーターはこの受付役です。
注目される理由も、この「一部だけ動かす」性質にあります。同ブログは、MoEは密なモデルよりはるかに速く事前学習でき、より少ない計算資源で学習できると説明。同じ予算でモデルを大きくできるのが開発側の旨みです。

「モデルは大きくしたい、でも計算コストは抑えたい」という両立しにくい願いへの答えがMoE、と考えると腑に落ちます。
「26B-A4B」「2.4T-A95B」の読み方|Aはアクティブパラメータ


よくある疑問:「8x7B」って、8×7で56Bのことじゃないの?
モデル名の「A」のあとの数字は、1トークンを処理するときに実際に動くパラメータの数(アクティブパラメータ)を表します。前半が総パラメータ、後半が実働ぶん、という読み方です。
いちばんはっきりしているのがQwen3.8-2.4T-A95Bの公式モデルカードです。スペック表には「Number of Parameters: 2.4T in total and 95B activated」とあります。総2.4Tのうち動くのは95Bで、名前の「A95B」がそのまま対応しています。
同じ表のエキスパート数は「512」、動くのは「10 Routed + 1 Shared」。512個のエキスパートのうちルーターが選ぶのは10個で、これに常時動く共有1個が加わります。なお公式リポジトリの更新履歴によれば、公開は2026年8月12日、密モデルのQwen3.8-27Bは同8月14日でした。
「8x7B」というかけ算風の表記は、Mistral AIのMixtral 8x7B発表が有名です。同社は「各層・各トークンごとに、ルーターがこれらのグループから2つを選んで処理し、出力を足し合わせる」と説明。総パラメータは46.7B、1トークンあたりに使うのは12.9Bです。
つまり8×7=56Bにはなりません。エキスパート以外の部分は全体で共有するため、単純なかけ算にならないのです。名前は構造の目安で、正確な合計ではありません。
このズレは新しいモデルでも起きています。GoogleのGemma 4 26B A4Bモデルカードでは、総パラメータ「25.2B」、アクティブ「3.8B」と記載されています。名前の「26B」「A4B」は、実測値をきりのよい数字に丸めた呼び名ということです。
| モデル名 | 総パラメータ | アクティブ(1トークンあたり) | 公式の記載 |
|---|---|---|---|
| Mixtral 8x7B | 46.7B | 12.9B | Mistral AI「46.7B total parameters」「only uses 12.9B parameters per token」 |
| Gemma 4 26B A4B | 25.2B | 3.8B | Googleモデルカード(エキスパートは128個中8個+共有1個) |
| Qwen3.8-2.4T-A95B | 2.4T | 95B | Qwen公式「2.4T in total and 95B activated」 |
※2026年8月20日時点の各公式ページの記載。構成は更新されることがあるため、最新は公式のモデルカードで確認を。
Qwen3.8-27Bのように「A◯B」が付かない名前のモデルもあります。MoEのモデルには「A◯B」を添える表記が使われている、と読んでおくと迷いません。Qwen3.8-Maxの中身はQwen3.8-Maxとは?性能・料金と自分のPCで動かせるかで扱っています。
MoEは何が速い?「12.9Bのモデルと同じ速度」の意味
速さの説明としてよく引用されるのが、Mistral AIの一文です。同社はMixtral 8x7Bについて「入力の処理も出力の生成も、12.9Bのモデルと同じ速度・同じコストで行う」と述べています。総46.7Bなのに体感は12.9Bクラス、というわけです。
理由はシンプルで、1トークン処理するたびに触る計算量が減るからです。46.7B全部を通さず、選ばれた一部だけを通せば済みます。
読み違えやすいのが比較の相手です。Hugging Faceの解説は「同じパラメータ数の密なモデルと比べて推論がはるかに速い」と書いています。比べているのは「総パラメータが同じ密モデル」で、「アクティブぶんと同じ大きさの密モデル」ではありません。
46.7BのMoEが速いのは「46.7Bの密モデルと比べたら」という話で、もともと12.9Bの密モデルより速くなるわけではありません。大きなモデルの賢さを、小さなモデルの速度で使えるかもしれない——そこがMoEの旨みです。
なお「12.9Bのモデルと同じ速度」は、あくまでMixtral 8x7Bについての同社の説明です。エキスパートの数も割り振り方もモデルごとに違うため、すべてのMoEが同じとは限りません。
落とし穴|速いのにメモリは総パラメータぶん必要


よくある疑問:4Bしか動かないなら、VRAMも4Bぶんで足りるの?
ここがMoE最大の落とし穴です。Hugging Faceの解説は、はっきりこう書いています。「すべてのパラメータをメモリに読み込む必要があるため、メモリ要件は高い」「たとえばMixtral 8x7Bなら、密な47Bのモデルを収められるだけのVRAMが必要になる」。
VRAM(=グラフィックボードが持つ専用メモリ)で言えば、実働が12.9Bでも置き場所は46.7Bぶん要ります。ルーターがどのエキスパートを選ぶかは事前に分からないので、全員を待機させておくしかありません。
アクティブが4Bでも、必要なメモリは4Bぶんにはなりません。
同じモデルファミリーの公式値で並べると、はっきりします。Google公式のGemmaドキュメントが公開している、おおよそのGPU/TPUメモリ要件です。
| モデル | BF16(16bit) | SFP8(8bit) | Q4_0(4bit) |
|---|---|---|---|
| Gemma 4 12B(密) | 26.7 GB | 13.4 GB | 6.7 GB |
| Gemma 4 26B A4B(MoE) | 57.7 GB | 28.8 GB | 14.4 GB |
| Gemma 4 31B(密) | 69.9 GB | 34.9 GB | 17.5 GB |
4bit相当で見ると、実働3.8BのMoEが14.4GB。密の12B(6.7GB)の倍以上を必要とし、密の31B(17.5GB)に近い位置です。「4Bぶんしか動かないから軽い」という直感は、ここで裏切られます。
同じ傾向は配布ページの実物でも確かめられます。Ollama公式ライブラリのgemma4タグ一覧に並んでいるダウンロードサイズです。
| タグ | ダウンロードサイズ |
|---|---|
| gemma4:12b(密・4bit系) | 7.6GB |
| gemma4:26b(MoE・4bit系) | 18GB |
| gemma4:31b(密・4bit系) | 20GB |
| gemma4:26b-a4b-it-q8_0 | 28GB |
| gemma4:26b-a4b-it-bf16 | 52GB |
この2つの表は性質が違う数字です。Googleの表はメモリ要件の見積り、Ollamaの表はファイルのダウンロードサイズで、14.4GBと18GBは同じものを指していません。ただ「26Bは密の12Bの倍以上、密の31Bとほぼ同格」という並び順は共通しています。
ここで量子化とMoEの役割の違いを押さえておくと迷いません。量子化は1個の重みを軽くするのでメモリそのものが減り、MoEは使う重みの数を減らすだけなのでメモリは減りません。
だからこそ両者は組み合わせて使われます。仕組みは量子化とは?AIモデルが4bitで軽くなる仕組みにまとめています。
弱点はメモリだけではありません。Hugging Faceの解説は「MoEは歴史的に、ファインチューニングでの汎化に苦戦してきた」とし、過学習に陥りやすい点も挙げています。
自分のPCで動かすなら?モデル名の「総パラメータ」側を見る
ここまでをPC選びの言葉に翻訳すると、答えは1行です。グラフィックボードを選ぶときに見るのは、モデル名の前半にある総パラメータのほう。「A◯B」は速度の目安であって、置き場所の目安ではありません。
家庭のパソコンで現実的な入口として名前が挙がるのが、OpenAIが公開したgpt-oss-20bです。モデルカードには「21B parameters with 3.6B active parameters」とあり、総21B・アクティブ3.6BのMoEだと分かります。ライセンスはApache 2.0です。
メモリについて同カードは、MoEの重みをMXFP4で量子化したことで「gpt-oss-20bは16GBのメモリに収まって動く」と説明しています。VRAM単体かシステムのメモリ込みかまでは書かれていませんので、「16GBあれば必ず快適」とは受け取らないほうが安全です。
配布サイズも見ておくと感覚がつかめます。Ollama公式のgpt-ossタグ一覧では20bが14GB、120bが65GBです(2026年8月20日時点)。20bならVRAMに余裕のあるパソコンの射程に入ってきます。
よくある疑問:じゃあ、密モデルとMoEはどう使い分ければいいの?
| 見るポイント | 密モデル | MoE |
|---|---|---|
| 必要なメモリ | パラメータ数どおり | 総パラメータぶん(アクティブぶんではない) |
| 名前の読み方 | 「31B」など1つの数字 | 「26B-A4B」など総+アクティブの2つ組 |
| 速さの傾向 | サイズなりの速さ | 同じ総パラメータの密モデルより速い設計 |
| 選ぶときの目安 | 入るサイズを素直に選ぶ | 前半の数字でメモリを見積もる |
MoEの旨みは容量ではなく速度側にある——これが結論です。同じくらいの容量を占める密モデルと比べて、応答が軽やかに感じられる場面がある、という受け止め方が実態に近いはずです。
では実際に何GBのVRAMを積んだモデルを選べばいいのか。モデル別の目安とグラフィックボードの選び方はローカルLLMのVRAM目安とグラボの選び方にまとめてあります。
\MoEを動かすならメモリ容量で選ぶ/



動かしたいモデルの総パラメータを先に決めてから、必要なVRAM容量を逆算する。遠回りに見えて、これがいちばん失敗しません。
まとめ|MoEは速さの仕組み、メモリは総パラメータで見る
- MoEとは、複数のエキスパートとルーターで構成し、一部だけを動かす設計
- 「A◯B」=アクティブパラメータ。1トークンあたり実際に動く量を指す
- 速さはアクティブぶん。ただし比較の相手は「同じ総パラメータの密モデル」
- メモリは総パラメータぶん。Gemma 4 26B A4Bは4bit相当で14.4GB(密12Bは6.7GB)
- PC選びで見るのは名前の前半。総パラメータから必要なVRAMを見積もる
モデル名の読み方がわかると、配布ページの見え方が変わります。「A」のあとの数字に安心せず、前半の数字で置き場所を計算する。この順番を守れば、買ってから動かせなかったという遠回りは避けられます。
数値はいずれも2026年8月20日時点の公式ページの記載です。モデル構成も配布サイズも更新されますので、導入前には公式のモデルカードと配布ページで最新の値を確認してください。
- MoEは密モデルより賢いのですか?
-
一概には言えません。MoEは「同じ計算量でモデルを大きくする」ための設計思想であり、賢さそのものを保証する仕組みではないからです。
公式情報でも、MoEと密モデルの精度を横並びで比べた数値は示されていません。むしろHugging Faceの解説は、ファインチューニングでの汎化にMoEが苦戦してきた点を挙げています。
- 「26B-A4B」の26Bと4B、グラフィックボードを選ぶときはどちらを見ればいいですか?
-
26Bのほう、つまり前半の総パラメータを見てください。アクティブパラメータは速度の目安であって、メモリの目安ではありません。
実際にGoogle公式のメモリ要件では、Gemma 4 26B A4Bは4bit相当で14.4GBとされています(2026年8月20日時点)。密の12Bが6.7GBですから、倍以上の開きがあります。
- アクティブが3.8BならVRAM 4GBほどで動きますか?
-
動きません。ルーターがどのエキスパートを選ぶかは事前に分からないため、使われない分も含めて全体をメモリに置いておく必要があるからです。
見積もりは名前の前半にある総パラメータをもとに行ってください。モデル別の具体的な目安はローカルLLMのVRAM目安とグラボの選び方にまとめています。
- 量子化すればMoEも軽くなりますか?
-
はい、量子化はMoEにも有効です。Google公式の表でも、Gemma 4 26B A4BはBF16の57.7GBに対しQ4_0では14.4GBまで下がります。
ただしMoEそのものにメモリを減らす効果はありません。軽くしているのは量子化で、MoEは使う重みの数を減らしているだけ、と切り分けると混乱しません。
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