CPUの殻割り(デリッド)は、冷却の話題で名前が出る手法です。「CPUの温度が下がらない」と検索すると出てくる一方で、メーカー保証が受けられなくなる改造として紹介されることがほとんどでした。
その前提が、2026年8月に変わりました。サーマルグリスで知られるThermal Grizzlyが、あらかじめ殻割りを済ませ、自社の保証まで付けたCPUを売り出したと報じられています。価格は1,402.83ドルです。
この記事では、殻割りとは何かという基本から、今回のニュースで何が変わったのか、そして一般的な使い方をしている人が殻割りをやるべきなのかまでを、出典を示しながら整理します。
- 殻割りは温度を下げる手段のひとつですが、ゲーム用途で市販のPCを使う大多数の人には必要ありません。
- 殻割り=CPU上面の金属のフタを外し、中の半導体を直接冷やせるようにする改造
- 自分で行うとAMDやIntelのメーカー保証は受けられなくなる(改造は保証対象外)
- 2026年8月、独自保証付きの「殻割り済みCPU」が1,402.83ドルで発売され、選択肢が増えた
- 温度を下げたいだけなら、エアフローやクーラーの見直しが先
CPUの殻割り(デリッド)とは?フタを外して直接冷やす改造

CPUの殻割り(デリッド)は、CPUの上面に付いている金属のフタを取り外し、中の半導体チップを直接冷やせるようにする改造です。「殻」=フタ、「割り」=外す、という言葉のとおりです。
この金属のフタを、専門用語ではヒートスプレッダ(=CPUの熱を面で広げてクーラーへ渡す金属のカバー。IHSとも呼ばれます)と言います。役割は2つです。
- 保護:中の半導体チップ(ダイ)は薄くて欠けやすいため、金属で覆う
- 熱の拡散:小さなチップの熱を広い面積に広げ、クーラーが受け取りやすくする
ただし、熱にとっては遠回りにもなります。チップの熱は「内部の熱伝導材 → フタ → 表面のグリス → クーラー」の順に伝わるため、途中でロスが生まれます。フタを外して熱の通り道を短くするのが殻割りの狙いです。
フタの内側で使われている材料には、大きく2種類あります。
| 内部の材料 | 特徴 | 殻割りの効果 |
|---|---|---|
| グリス(樹脂系の熱伝導材) | 安価で扱いやすいが、熱の伝わり方は控えめ | 高性能な材料に替えると差が出やすい |
| ソルダリング(=金属のはんだで接合する方式) | 熱がよく伝わるが、剥がすのが難しい | 効果は小さめで、作業の難度は上がる |
殻割りが広まったのは、Intelが一時期、内部にグリスを採用していたころです。その後は多くの製品がはんだ接合に戻り、「開ければ必ず得をする」状況ではなくなっています。

フタを外すことは、壊れやすくなることでもあります。殻割りは冷却手段の最後の選択肢として見ておいてください。
保証付きの「殻割り済みCPU」が発売|2026年8月のニュース
話題になったのは、ドイツのThermal Grizzly Holding GmbHが売り出した「TG Delidded CPU – AMD Ryzen 9 9950X3D2」(型番 TG-DEL-CPU-006)です。
発売日はPC Watchが8月19日(現地時間)、エルミタージュ秋葉原が8月18日と報じており、表記に幅があります。
要点は、作業を購入者ではなくメーカー側が行い、そのうえで保証を付けていることです。専門のスタッフが工場の段階でフタを外し、清掃と動作テストを済ませてから出荷すると説明されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | TG Delidded CPU – AMD Ryzen 9 9950X3D2(TG-DEL-CPU-006) |
| 販売元 | Thermal Grizzly Holding GmbH(ドイツ) |
| 価格 | 1,402.83ドル(VAT込み・送料別/2026年9月1日確認) |
| 保証 | Thermal Grizzly独自の24か月グローバル保証 |
| 同梱物 | 殻割り済みCPU本体/取り外した純正のフタ/検証データ入りUSBメモリ |
| 必要な冷却 | Direct-Die対応クーラー+液体金属「Conductonaut Extreme」を推奨 |
2026年9月1日に公式ページを確認したところ、殻割り済みCPUの対象は9950X3D2だけではなく、AMD Ryzen 7 9800X3D・Ryzen 7 9850X3D・Ryzen 9 9950X3D・Ryzen 9 9950X3D2の4機種から選べるようになっていました。
上位CPU以外にも選択肢があるため、対象と価格は公式ページで確認してください。
同梱のUSBメモリには、その個体を検証したときの温度のスクリーンショットと顕微鏡写真が入っています。加工の過程で基板やダイに微細なキズが入る場合はあるものの、機能には影響しないとされています。
ただし、取り外した純正のフタを付け直すと、この24か月保証は無効になります。「元に戻せば安心」ではない点は、購入前に確認しておく条件です。
この「純正のフタは使わないこと」という条件は、Thermal Grizzly公式の製品ページにも記載されています。
同ページでは価格が1,402.83ドル(VAT込み・送料別)と表示され、2026年9月1日時点でも「Not in stock」(在庫なし)の表示が続いていました。購入を検討するなら、まず公式ページで在庫と条件を確認してください。
よくある疑問:そもそも中身のCPUはどのような製品でしょうか。
ベースのRyzen 9 9950X3D2 Dual Editionは、PC Watchによると2026年4月24日発売で、国内想定売価は17万8,000円(税込)と報じられました。16コア/TDP 200W、Socket AM5対応、キャッシュは合計208MB(うちL3が192MB)という構成です。
2つのCCDの両方に3D V-Cacheを載せた点が新しく、従来のRyzen 9 9950X3Dでは片方だけの搭載でした。殻割り済み版との差額は、作業と24か月保証、検証データに対する費用にあたります。
なぜ温度が下がるのか?Direct Dieと液体金属の仕組み


殻割りしたCPUにクーラーを直接触れさせる構成を、Direct Die(=ダイ直冷。むき出しの半導体チップにクーラーを密着させる方式)と呼びます。熱の通り道からフタと1層分の熱伝導材が消えるため、その分だけ温度が下がります。
効果の大きさについて、Thermal Grizzlyは自社のDirect Die構成で最大20℃の温度低下が見込めるとしています。ただし環境や冷却システム、個体差によって変わるとも明記されており、誰でも20℃下がるという意味ではありません。
差が出るのは高負荷が続く場面です。動画視聴のような軽い作業ではCPUがあまり発熱しないため、体感できる変化はほとんどありません。
それでも冷却にこだわる人がいるのは、温度が性能に直結するからです。CPUは熱くなりすぎると自動的にクロックを落とします。これがサーマルスロットリングで、余裕をもって冷やせているほど高い動作クロックを保てます。
もうひとつは静かさです。温度に余裕があればファンが全開で回る時間は短くなるため、高負荷時の動作音が下がります。性能と静音性の両方につながる点が、冷却に手をかける理由です。
液体金属は性能と引き換えに扱いが難しい
Direct Die構成では、熱伝導材に液体金属が使われることがあります。今回の製品でも「Conductonaut Extreme」が推奨されています。熱をよく伝える一方で、注意すべき性質があります。
- 電気を通す:はみ出して基板に触れると、ショートの原因になり得る
- アルミを腐食させる:クーラーの素材によっては使えない
- クーラーを選ぶ:Direct Die対応の受熱面でないと密着しない
今回の製品でも、対応クーラーは「Mycro Direct-Die」「Mycro Direct-Die Pro」「High Performance Heatspreader」と案内されています(2026年9月1日に公式ページで確認)。
手持ちのクーラーがそのまま使えるとは限らない点は、費用を見積もるうえで確認が必要です。



殻割りはCPU単体の改造では終わりません。クーラーと熱伝導材までセットで組み替える作業として見積もってください。
初心者は殻割りをやるべき?向く人・向かない人
結論として、市販のゲーミングPCやBTOパソコンを使っている場合、殻割りは必要ありません。理由は効果の小ささではなく、失敗したときに戻せないからです。
AMDは公式に、リテールパッケージ(箱入り)のプロセッサーへ購入日から3年間の限定保証を設けています。ただし対象は適切に取り付けて使用した場合で、改造や不適切な取り付けによる損傷は対象外だと明記されています(AMD公式サポート)。
フタを外す行為は、この「改造」にあたります。つまり自分で殻割りをした時点で、メーカーの保証は使えなくなります。
失敗してCPUが起動しなくなっても、交換や返品はできず、費用は全額自己負担になります。
殻割りに必要な道具と、作業の流れ
どれくらいの作業なのかが分かれば、自分に向くかどうかを判断できます。自分で行う場合にそろえる道具は、次の3点です。
- デリッドツール:CPUを固定してフタだけを横へずらす専用の治具。カッターなどでこじ開ける方法は基板を傷めます
- 内部の熱伝導材を落とす道具:はんだ接合の場合は専用の除去剤やヘラが必要で、ここが最も難しい工程です
- 新しい熱伝導材とDirect Die対応クーラー:液体金属を使うなら、はみ出しを防ぐ養生材もあわせて用意します
作業の流れは次の4段階です。途中で引き返せる工程はありません。
マザーボードからCPUを取り外し、デリッドツールに向きを合わせて固定します。
ねじを少しずつ回し、フタと基板の接着を切りながらスライドさせます。力をかけすぎると基板が割れます。
ダイと基板に残った材料を、傷を付けないよう取り除きます。はんだ接合だと最も時間がかかり、失敗も起きやすい工程です。
液体金属なら薄く均一にのばし、はみ出さないよう養生してからDirect Die対応クーラーを密着させます。
作業自体は短時間で終わりますが、失敗の多くはフタを外す場面と、古い熱伝導材を落とす場面で起きます。道具や対応クーラーの費用も別に必要です。
選択肢を3つに整理します。
| 選択肢 | 費用 | 保証とリスク | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| ①自分で殻割りする | 工具・熱伝導材・対応クーラー代 | メーカー保証は対象外/破損すると買い直しになる | 失敗しても納得できる自作の経験者 |
| ②殻割り済み製品を買う | 1,402.83ドル | 販売元の24か月保証/作業リスクは負わない | 予算をかけて冷却を突き詰めたい人 |
| ③殻割りしない | 0円〜クーラー代 | メーカー保証を維持/リスクはほぼなし | ゲーム・仕事で使う大多数の人 |
Intel製CPUでも事情は同じです。近年の製品ははんだ接合が主流で、フタを剥がす難度が上がりました。メーカーを問わず、改造扱いになれば保証が使えなくなる点は共通です。
なお、Ryzen 9 9950X3D2はゲーム性能で選ぶCPUではありません。AMDの資料でも従来のRyzen 9 9950X3Dと同等の位置づけとされ、実測レビューでも伸びは限定的だと報じられています。
殻割りしないでCPU温度を下げる5つの方法


ここからは、保証を維持したまま試せる方法です。すべて行う必要はなく、手間の少ないものから選んでください。
まず現状の温度を測ります。数値を知らないまま対策を重ねても、変化を判断できません(手順はPCの温度確認方法)。
①ケース内のエアフローを整える
前から吸って後ろ・上へ抜く流れができているか、ケーブルが風の通り道をふさいでいないかを確認します。考え方はエアフローとは?ケースファンの向き・数で扱っています。
フィルターのホコリを落とすだけでも変わります。
②ファンの回転設定と電源プランを見直す
静音優先の設定だと、温度が上がってもファンが控えめにしか回りません。BIOSやメーカー製ユーティリティで、高温時にしっかり回るカーブへ変更します。Windowsの電源プランを省電力寄りにする方法もあります。
③CPUクーラーのグレードを上げる
付属クーラーや小型の空冷から、大型の空冷や水冷へ替える方法です。殻割りと違って手順が確立していて、失敗しても元に戻せます。対応ソケットとケースの高さを確認してください。
④表面のグリスを塗り直す(フタは外さない)
CPUのフタとクーラーのあいだのグリスは、年数が経つと乾きます。塗り直しは改造ではなく通常のメンテナンスで、フタを外さないため保証の扱いも変わりません。作業前に電源を落としてケーブルを抜いてください。
⑤買うときに冷却構成を選んでおく
最も確実なのは、購入時点で冷却に余裕を持たせることです。BTOパソコンなら注文画面でCPUクーラーを水冷などに変更できます。後から手を入れるより、最初に数千円上乗せするほうが費用は抑えられます。
\水冷・静音構成も選べる/
どこまで下げれば十分なのかは、CPU・GPUの適正温度は何度?で目安を確認してください。高負荷時でも危険域に届いていないなら、それ以上冷やしても体感は変わりません。



①〜④で下がらないときは、置き場所も確認してください。壁や家具に密着していると、排気を吸い直します。
まとめ|殻割りは知っておくだけで足りる人がほとんど
- 殻割りは、CPUのフタを外して熱の通り道を短くする改造
- 自分で行えばメーカー保証は対象外。失敗しても交換・返品はできない
- 2026年8月、独自保証付きの殻割り済みCPUが1,402.83ドルで登場した
- 2026年9月1日時点で対象は9800X3D・9850X3D・9950X3D・9950X3D2の4機種。ただし在庫なしの表示が続いている
- 最大20℃という数値は条件付き。環境・冷却・個体差で変わる
- 温度に困っているなら、エアフロー・ファン設定・クーラー交換が先
今回のニュースの意味は、「保証が受けられないから手が出せない」という前提に、費用で解決する道が加わったことにあります。冷却を突き詰めたい人のための選択肢です。
ゲームや仕事でパソコンを使う立場なら、まず温度を測り、風の通り道を整えるところから始めてください。価格や仕様は変わるため、最新の情報は各社の公式ページで確認してください。
- 殻割りするとどれくらい温度が下がりますか?
-
一律の数値はありません。今回の製品についてThermal Grizzlyは、Direct Die構成で最大20℃の低下が見込めるとしていますが、環境・冷却システム・個体差で変わるとも説明しています。ほかの構成に当てはめられる数字ではありません。
- 殻割りするとメーカー保証はどうなりますか?
-
受けられなくなると考えてください。AMDはリテールパッケージのプロセッサーに購入日から3年間の限定保証を設けていますが、改造や不適切な取り付けによる損傷は対象外だと公式に明記しています。Intel製CPUでも同じです。
- 殻割り済みCPUはどの機種が選べますか?
-
2026年9月1日にThermal Grizzly公式の製品ページを確認したところ、AMD Ryzen 7 9800X3D・Ryzen 7 9850X3D・Ryzen 9 9950X3D・Ryzen 9 9950X3D2の4機種が対象として並んでいました。
ただし同日時点では「Not in stock」(在庫なし)の表示が続いています。
- 殻割り済みCPUは日本でも買えますか?
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2026年9月1日時点で、国内代理店での取り扱いは確認できていません。販売はThermal Grizzlyのオンラインショップが中心で、価格は1,402.83ドル(VAT込み・送料別)です。送料や関税、対応クーラーの費用も含めて判断してください。
- ゲーム用途で殻割りをする意味はありますか?
-
大半の場合、必要ありません。ゲーム中のCPU負荷は一部のコアに集中しやすく、温度に余裕があるならクロックはすでに保てています。フレームレートを上げたいなら、グラフィックボードや画質設定を見直すほうが結果につながります。
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